対談:入山章栄 教授×山中信哉 社長
中古車輸出ビジネスで培った「目利き」力で
世界に羽ばたく自動車総合サービス企業
(左)入山章栄氏 早稲田大学大学院経営管理研究科教授
(右)山中信哉 オプティマスグループ社長
入山章栄氏 早稲田大学大学院経営管理研究科教授山中信哉 オプティマスグループ社長
2025年2月27日から3月30日まで『日経電子版』に掲載された記事広告
対談:入山章栄 教授×山中信哉 社長
(左)入山章栄氏 早稲田大学大学院経営管理研究科教授
(右)山中信哉 オプティマスグループ社長
入山章栄氏 早稲田大学大学院経営管理研究科教授山中信哉 オプティマスグループ社長
オーストラリア、ニュージーランドを中心に「自動車総合サービス事業」を展開するオプティマスグループは、1988年の創業以来着実に成長を遂げてきた。「自動車のライフサイクルに寄り添う“クロスボーダー・カンパニー”」を標榜する同社独自のビジネスモデル、成功の要因、今後の成長戦略とは――。早稲田大学大学院経営管理研究科の入山章栄教授とオプティマスグループの山中信哉社長が語り合った。
縁あって始めたNZへの中古車輸出
オプティマスグループには、主にニュージーランド、オーストラリア、日本で中古車の輸出入や新車販売、物流、検査などを手掛ける企業が58社あると聞きました。創業の経緯を教えてください。
もともと商売をしたかったのですが、当時はまとまった資本もインターネットも無かったので、まず様々な商品の訪問販売を始めました。いずれは海外に出たいという思いを抱いていたところ、知人からニュージーランドに住む日本人を紹介されたんです。その縁で水産物などの輸入を中心に手掛ける貿易会社「日貿」を立ち上げました。1988年、オプティマスグループの始まりです。
翌年には日本からニュージーランドへ中古車の輸出を始めていますね。どのような経緯からですか。
ちょうど1989年に、ニュージーランド政府が輸入車の規制緩和を実施したのです。この機に、日本からニュージーランドに中古車を輸出する事業を始めました。たまたま現地の友人の父親が中古車のディーラーだったのがきっかけです。
NZ中古車市場で約40%のシェア
ニュージーランドは、日本と同じ左側通行で、右ハンドル車が主流です。日本の中古車の許容度合いが高いのでしょうか。
新規登録車の半分は中古車で、うち95%ほどが日本車です。オプティマスグループは中古車市場で約40%のシェアを持っています。
入山章栄氏 早稲田大学大学院経営管理研究科教授
すごいですね。ニュージーランドの道路を走っている車の5台に1台はオプティマスグループが関わっているわけですか。成功の要因は、どこにあるのでしょう。
入山章栄氏 早稲田大学大学院経営管理研究科教授
単に中古車を右から左に流すのではなく、商品の品質を見極める「目利き」力を磨き上げたことが大きな要因だと自負しています。加えて、中古車ビジネスを日本人の細やかな感性で深掘りし、仕入れからデリバリーまでを一貫する仕組みづくりに長年注力してきました。物流は、海上・陸上を含めほとんどが自社物流。自動車の性能と道路上での安全検査はもちろん、自社開発した熱処理システムをはじめとする検疫検査は各国政府の特許を取得しています。ほかにも、自動車ローンなどカスタマーを支援する様々なサービスを整えています。
商品は同じ。違いをつくるのは「人」
以前、シンクタンクにいたころ自動車産業の調査を行ったことがあります。中古車市場は種々雑多な商品が入り乱れているから、目利きが鍵を握る。ワインと似たところがありますね。ニュージーランドは比較的豊かな国だから、新しめの中古車に人気があるのですか。
いえ、スコットランド系の移民が多いこともあり、国民性はかなり質実剛健です。車も安くて質の高い商品を選ぶ傾向が強いんです。だから、質の高い車を目利きの力で選び抜ける、いわば職人を育てることが重要で、一人前になるには10年くらいかかります。商品は同じですから、違いをつくるのは人なんです。
その通りですね。僕はこれまで、あるドイツメーカーの車を3台乗り継いできましたが、全部、中古車なんです。そのメーカーの中古車センターの営業担当者の目利き力に心をつかまれちゃったからなんですよ。
豪の大型M&A、成長を大きくけん引
2018年から、オーストラリア市場に本格参入しましたね。ニュージーランドでのビジネスモデルと違いはあるのでしょうか。
山中信哉 オプティマスグループ社長
オーストラリアでは新車販売を展開しています。2023年に新車ディーラーグループのAUTOPACT(オートパクト)、2024年に自動車物流会社AUTOCARE(オートケア)を買収しました。どちらもオーストラリアで5本の指に入る業界大手です。ビジネス展開でユニークな点はマルチブランドを手掛けていること。自動車ブランドは世界に80ほどありますが、オプティマスグループは日米欧中など約35のメジャーブランドを扱っており、地域性に合わせてラインアップを豊富にそろえています。
山中信哉 オプティマスグループ社長
マルチブランドで自社物流も持っているディーラーグループは、オーストラリアでオプティマスだけなんですね。乾燥している地域なら四駆、欧米の高級ブランドが好まれない地域には新興の中国ブランドをと、自由にポートフォリオを組める。オーストラリアは広大だけど、自社物流を生かせば、戦略的にいろいろなことができる。ビジネスとして相当おもしろいですね。
ありがとうございます。オーストラリアでの2件の大型M&A(合併・買収)により、同国の新車販売事業と自動車物流事業に参入し、より強固な事業基盤を構築しました。その結果、2020年3月期から2024年3月期までの4年間で、売上高は年平均成長率(CAGR)47.0%で成長しました。
マルチブランドの直販で、顧客情報がダイレクトに取れることも大きな強みですね。
実は、2022年にオーストラリアの自動車関連データサービス会社も買収しているんです。データ解析が得意な会社なので、いろいろな面で情報を生かせると期待しています。ほかにも、新車を輸送した帰り便を活用して中古車も輸送するなど、グループ内の物流の効率化をはじめ、M&Aで仲間になった会社とのシナジーを拡大していきたいと考えています。
オーストラリアは移民の国なので、欧州のようにブランドだけにこだわる人は少なく、メーカーよりディーラーに主導権があるはずです。自分にとって最適な車を親身になって探して調達してくれる、オプティマスグループのサービスは持ってこい。ライフタイムバリューは上がるでしょうね。データを持ちマルチブランドで展開しているからこそできることです。
はい。そうした視点で自動車の総合サービス企業として事業を展開しています。オーストラリアは英連邦でカントリーリスクも小さい先進国で、人口は若い移民を中心にコンスタントに増えています。国土が広く、公共交通機関が少ないから、車は生活インフラのようなもの。今後も拡大成長できる市場です。
「説明しづらい会社こそユニークで強い」
オプティマスグループの強みは何と言っても、山中社長の視点です。経営は差別化だから、人と同じことをやっていても勝てない。差別化するにしても、普通はもう少しこじんまりしているのですが、山中社長は、普通の人が思いつかないような圧倒的な差別化を図る。戦略の着眼点、勝負勘がすばらしい。これまで、山中さんのような経営者に会ったことはありません。一方で、戦略を動かす人を育成・確保することは非常に難しい。大胆な戦略の裏側で、相当地味に人づくりと組織づくりを進めていらっしゃると推察しました。
ありがとうございます。人づくりと組織づくりには時間がかかります。オーストラリアの事業を統括する役員の一人は、20年以上の付き合いを経て3年前にやっと合流してくれたんですよ。タイミングや縁は大事にしています。加えて日ごろから社員には、「人が好きでないと、うちでは務まりませんよ」と言っています。
今後、アメリカをはじめ、他の国への進出も考えているとお聞きしました。
「ル・マン24時間耐久レース」で完走も(右が山中社長)
アメリカでは、オーストラリアで築いたビジネスモデルを生かせると考えています。業界団体などのメンバーになるなど、幅広い人脈づくりを進めていきます。私の趣味の話になりますが、50歳からレーシングドライバーを目指し、60歳で出場した国際レース「ル・マン24時間耐久レース」でも完走を果たしたんです。こんな「車好き」エピソードも、業界での信用を得る上で役に立っているのかもしれません(笑)。
「ル・マン24時間耐久レース」で完走も(右が山中社長)
マジですか(笑)。僕が、いい会社だと思う条件は、業務内容が説明しづらい会社なんです。説明できるということは、模倣しやすいということだから。失礼ながらオプティマスグループは、説明することが大変難しい。でも、深く理解すれば「すげぇ」となる。IR(投資家向け広報)では苦労すると思いますが、オプティマスグループは、非常にユニークで強い会社だと思いました。
これまで、説明しづらいことが悩みだったのですが、やっとすっきりしました(笑)。オプティマス(Optimus)はラテン語で「最善」を意味し、経営理念には「正しく公平な経営により、最善の貢献を図る」を掲げています。M&Aで仲間になった皆さんも含め、こうした思いと夢を共有しながら、オプティマスグループとして誇りの持てる商品やサービスを提供していきます。
創業から今年で37年。グループで50社を超える企業に成長しましたが、私の夢はどんどん先へ続いています。世界は果てしなく、ビジネスはいくらでも深掘りできる。今後とも、自動車総合サービス企業として世界に羽ばたくオプティマスグループのご支援を、よろしくお願いします。